うつぶせの社会的意義について

うつぶせの社会的意義について

この記事ではなぜ、私が「うつぶせ」を多くの方に知ってほしいのか、その社会的意義についてお伝えしたいと思います。

私の著書である「うつぶせ1分で健康になる」(ダイヤモンド社)は、おかげ様で手軽で簡単、ズボラでもできる、というキャッチコピーの力もあり、肩こりや腰痛、不眠などにもいいという事で多くのメディアに取り上げて頂きました。

それはそれでありがたいことなのですが、実はそれは私の中では副産物であり、この「うつぶせ」の普及は社会的な意義があると個人的には思っています。

その理由が今回の「うつぶせと社会的意義」にもつながるのですが、是非そのことをお伝えしたいと思います。

日本人の肺炎関連の死者数は年間10万人以上


 (厚生労働白書 平成29年度 人口動態統計月報年計より)

実は、一般の人にはあまり知られていないかもしれないのですが、肺炎は日本人の死因第5位、(誤嚥性肺炎は7位)で、はこのように肺炎に関連した死者が10万人を超えています。

特に高齢者においてこの肺炎の死亡者数が高く、この数年は高齢社会を反映して肺炎による死亡者数は年々増加しています。

今年、2020年においては新型コロナウイルスの感染拡大により重症肺炎の治療薬の開発などが注目されていますが、実は薬によって肺の炎症を抑えたり、人工呼吸器などの呼吸管理で命を守ることと同じく、重症肺炎の治療において重要なことがあります。

それが、肺や気道にたまった分泌物である痰を排出する『排痰(はいたん)』という行為です。

実は、呼吸器疾患の患者様の肺炎治療においてこの排痰はかなり重要な位置づけになります。
 
痰が肺や気道にたまったままだと、せっかく人工呼吸器などで肺に酸素が送られても、血中に酸素が十分に取り入れるためのいわゆるガス交換ができず、体内が酸素不足に陥り、生命維持活動ができないからです。

なので、肺炎治療においては、投薬や酸素吸入、人工呼吸器管理と同じく、この排痰というのがとても重要になります。

多くの高齢者にとって痰を出すのが難しいという事実

この痰を出す、排痰をしないとガス交換のための肺のスペースがなくなり呼吸困難になることをお伝えしましたが、  実はこの排痰(はいたん)が高齢者にはとても困難である場合が多いのです。
 
 
 
その理由については以下、  痰を出すメカニズムを理解すると解説すると分かりやすいです。
 
 咳のメカニズム
1、大きく息を吸う(吸気相)
 
2、一瞬息を止めて(圧縮相、声門閉鎖)
 
3、大きな咳をする(呼気相=エヘン!)

 
 
 
これによって痰を出すわけですが、、、、
 
高齢者になるとこの強い咳が難しくなります。
 
 
 
その原因は、、、
 
1、大きく息が吸えない(肋骨が固まっている、猫背などによる肺活量低下)
 
2、いきむ強さがない、(喉や声帯の筋力低下)
 
3、大きな咳をするための腹筋をはじめとした体幹筋力がない。
 
 
ということがなどが挙げられます。
 
 
 
なので、僕たち理学療法士は、肺炎などの呼吸器疾患の患者様の痰を出すために、いかにして有効な咳をして痰を出せるか?ということを考えて、リハビリ(理学療法)をします。  実際、呼吸リハビリ関連の学会ではこの排痰のための研究が多くなされています。

また、この排痰困難は現在世間を騒がせている新型コロナ肺炎に限らず、もともと日本では年間に14万人(5位肺炎と7位誤嚥性肺炎をあわせて)もの人が肺炎で亡くなっているという事実があることからも、高齢者における肺炎の致死率と非常に関連性があることを意味しています。

実際に私自身も病院勤務の臨床時代に、多くの排痰困難の呼吸器患者様を診てきました。

 
そんな、強い咳ができない、排痰の能力が低下した高齢者のために排痰をする有効な手段の一つに実は「腹臥位(ふくがい)=うつぶせ」があります。

呼吸器患者様の痰を排出するためにもちろん去痰剤(痰を出すための薬)もあるのですが、それ以外に体位排痰法(体位ドレナージ)という方法も重要であり、その中の一つに腹臥位療法というのがあります。

これを英語ではprone positon(プローン ポジション)というのですが、色々な論文がでており、特にARDSのような急性かつ重篤な呼吸器障害において有効性が報告されています。

その論文の一つがコチラ

●Efficacy and safety of early prone positioning combined with HFNC or NIV in moderate to severe ARDS: a multi-center prospective cohort study

(中等度から重度のARDSにおけるHFNCまたはNIVと組み合わせた早期腹臥位の有効性と安全性:多施設前向きコホート研究)

https://ccforum.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13054-020-2738-5
 
 

※尚、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の詳細については以下を参照下さい。

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)ウィキペディア(Wikipedia)

ARDSについてはこちらの記事が分かりやすいです。

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)

「うつぶせ」 になれない高齢者たち

僕は、病院時代に多くの肺炎患者さんに、排痰ができない人をうつぶせさせたりして、痰を出す援助をしてきました。

その援助の方法としては、各種運動療法や呼吸介助といわれるような手技もありますが、その中で有効な方法の一つに体位排痰法としての「腹臥位療法(うつぶせ)」もとても有効な手段として積極的に実施していました。
 
 
しかし、、、、

たかがうつぶせですが、そんなうつぶせになれない高齢者を医療現場で沢山みてきました。

それこそ、1分はおろか、30秒、10秒、いや「うつぶせ」の体勢にすらなれない高齢者が沢山おられます。
 
「なんで、たかがうつぶせになれないんだろう、、、、、」
 

多くの高齢者は背が曲がり、足が伸びない、首や肩が硬くなっている、、、

色々な原因がありますが、とにかくうつぶせになれない、うつぶせが苦しい、、、そんな患者さんを数多く見てきました。

たかが「うつぶせ」。

それを1日1分でも習慣にして、うつぶせができない高齢者が減れば、日本の肺炎の死亡者が少しでも減るのではないか?
 
 
 
実は、この事が、私の著書「うつぶせ1分で健康になる」で、伝えたい重要なメッセージの1つでもあります。

もちろん、肺炎には色々な原因があって、「うつぶせ」だけできればいいというものではありません。

日頃の運動、栄養などが重要で様々な研究がなされています。
 

でも、時間もお金もほとんどかからない「うつぶせ」ってあまりにも当たり前すぎて多くの人が見過ごしているという事に気づき、改めて「うつぶせ」の大切さをお伝えしている訳です。
 
 
もちろん、若い人がうつぶせをすれば、肩こり、腰痛が軽くなる場合もあります。
 
 
寝つきが良くなるというお声も頂いています。
 
 
でも、私のゴールはそれだけではありません。
 
 
それはあくまで副産物。
 
 
年間で14万人もの方が肺炎関連で亡くなっているという事実。
 
 
 
もちろん、うつぶせだけで全ての肺炎の方が良くなるということはないですが、、、、
 
 
それでも、楽にうつぶせになる事ができれば排痰には有利なんですね!
 
 
医療従事者の負担も減ります。
 
 
 
薬の量も減らす事ができれば医療費の削減にもつながるかもしれない。。。
 
 
という事で、出版以降、色々とメディアでも取り上げられていますが、その部分がまだきちんと伝わっていないので、改めて今日は時間を作って、「うつぶせの社会的意義」について書かせて頂きました。

尚、「このうつぶせ」に関する社会的なメッセージについてはこちらの出版記念動画やダイヤモンドオンラインの記事でも紹介して頂いたりしています。

出版記念動画


総合内科専門医の立場から考える、「うつぶせはなぜ効果があるのか?」(ダイヤモンドオンライン)

https://diamond.jp/articles/-/208186
うつぶせになれますか?100歳まで自分で歩ける体にするために今から始めてほしいこと(ダイヤモンドオンライン)

https://diamond.jp/articles/-/207273

また、その他にもうつぶせに関する記事や動画も色々と配信していますので参考にしていただければと思います。

健康はうつぶせから!うつぶせのメリットと1日1分簡単実践法

この記事とほぼ同じタイトルですが、ここでは書いていないことも語っていますので宜しければこちらの動画も一緒にご覧ください。

まとめ

・日本では年間で10万人以上の人が肺炎(誤嚥性肺炎を含む)でなくなっている

・肺炎の死亡率は高齢者で高く、高齢社会に伴い、肺炎の死亡者数は増加している

・肺炎治療において痰を出す排痰は投薬や呼吸管理と同じく重要である

高齢者は強い咳ができないこともあり排痰が苦手

痰を出すための有効な手段として腹臥位療法(うつぶせ)がある。

うつぶせが、苦手、あるいはうつぶせができない高齢者が多い

・うつぶせが安楽にできる高齢者が増えれば、肺炎治療に有利な可能性

以上が私が、「うつぶせ」の普及が社会的意義につながると考えている理由です。

もちろん、うつぶせにはその他にも色々なメリット、意義がありますので、その他の記事も参考にしていただければ幸いです。

参考文献

・千住秀明,眞渕敏,宮川哲夫監修:呼吸理学療法標準手技,医学書院,東京,2008.132-138.)

・Elsie G.C, Hilda A.I.J,Cheryl E.K,:Thoracic kyphosis, rib mobility, and lung volumes in normal women and women with osteoporosis. Spine19,(11):1250-1255,1994.

・Mauro D B, Melisenda C, Daniel M, et al : Thoracic kyphosis and ventilatory dysfunction in unselected older persons: an epidemiological study in dicommano, Italy.  J Am Geriatr Soc 52:909-915, 2004.

・ Lin Ding, Li Wang, Wanhong Ma & Hangyong He :Efficacy and safety of early prone positioning combined with HFNC or NIV in moderate to severe ARDS: a multi-center prospective cohort study.Critical Care volume 24, Article number: 28 (2020)